江口宏志

2011年9月19日

一冊ずつ、中身も形もバラバラなのが写真集。
贈りものにしてみようといっても、いったいどれを手に取ればいいのか。迷ってしまうのは当然ですね。
選ぶ基準をひとつ挙げるとすれば、自分の好きな本を贈ること。それが何よりだと思います。
心から気に入っている本は、どこがいいのか明確に言えるでしょう。
ここが好きなんだという説明は、そのまま、「なぜこの本をあの人に贈るのか」という理由になるはずですよ。
僕がだれかに贈りたくなる本を、ここに並べてみましょうか。

まず、オランダの写真家Charlotte Dumasによる
『REVERIE』(De Pont Museum for Contemporary Art Tilburg)
一般に動物写真集は人に贈りやすいとは思いますが、
これは被写体がオオカミだけという変わり種。生々しくて気高い姿がいい。
これくらい薄くてワンテーマで統一されているほうが、贈りものとして成立しやすいかもしれません。
もらう側も構えなくて済みますしね。

佇まいのよさでいえば『steilleven』一之瀬ちひろ(prelibri)。小さな袋の中に本が入っています。
ページは袋綴じのままで、見るときに一枚ずつナイフを入れていく。
雑貨っぽいかわいらしさをまとった写真集もいろいろあるんです。プレゼントしやすいでしょう。
アメリカ人写真家David Horvitz『Everything That Happen in a Day』(Mark Batty Publisher)
彼は「お題」を設定して広く呼び掛けるんです、
「観光地で記念写真を撮っている人の背後に入り込んでください」とか、
「どこかにハシゴを置いて上ってみてください、その分だけ空が近くなりますから」とか。
それを自身のサイトに送ってもらい、作品化する。
写真をコミュニケーションの手段として考える新しいタイプの写真家です。
贈る・贈られるのもコミュニケーションですから、こういう写真集もありなのでは。

『Bright,Bright Day』(Distributed Art Pub Inc)は、映画監督アンドレイ・タルコフスキーの写真集。
前半に家族アルバムの写真、後半にポラロイド作品を収録していて、本としての完成度が高い。
後半の写真セレクトは英国の写真家スティーヴン・ギルです。
数年前に欧州へ買い付けに行ったとき見つけて、妻へのおみやげにした一冊です。
アーティスト川俣正さんの『Selection2:found objects』は、1970年代に撮影されたスナップ写真を、
印刷で忠実に再現しています。色褪せた感じや汚れまでつくり上げてあるんです。
一冊に綴じてなくてバラバラなのですが、それだってもちろん写真集と呼んでいい。
写真の束がそこにあれば、どんな形で収まっていようと写真集だと僕は思います。

Ari Marcopoulos『Directory』(Rizzoli)は、こんなものもあるんだよ、どう?
と人に手渡したくなる一冊。
ザラ紙に写真をコピーしたようなページが何百枚も続きます。
巨大なZINEみたいで、「ここまでやるか」と、眺めていてつい笑っちゃいます。

ホンマタカシ『IN OUR NATURE』は、本の造りの丁寧さで知られるSUPERLABの刊行。
モノとしてすてきな写真集は、贈りものに使いやすいですね。
個人的な感情があふれている写真集はギフトになりづらいかもしれませんが、
浅田政志『浅田家』(赤々舎)は、じつはとてもプレゼント向きだと思います。
自分の家族をモデルにしているとはいえ、
シチュエーションごとにコスプレっぽくしていることで匿名性と普遍性が生じています。
温かくてポジティブな写真だから、本を挟んで笑い合うことができますよね。
こうして見てくると、改めて写真集はいろんな種類、内容、形式があるものだと思います。
迷うのはしかたないにしても少しその気になって探してみれば、好きになれる写真集、
人に贈りたくなる写真集は、きっと見つかるものですよ。


えぐち・ひろし
セレクトブックショップ「UTRECHT/NOW IDeA」代表。
「THE TOKYO ART BOOK FAIR」共同ディレクター。
http://utrecht.jp/http://zinesmate.org

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