飯沢耕太郎

2012年8月10日


写真集を贈りものにするというのは、もともとよくあることだし、使い方としてはとても向いているはず。
洒落ているものだって多いし、華やかだったりするからぴったりでしょう。
どんな本を選ぶかというセンスは問われるけど、
まあそれはどんな贈りものをするときもつきまとうことですよね。

文章中心の本の場合って、自分が気に入ったものを相手も気に入る確率はあまり高くない。
意味や伝えたいことが比較的はっきりしているから、波長がぴたりと合うこともなかなかない。
読む時間だってある程度必要だし、負担が少し大きいかもしれない。
でも、写真集の場合は言葉ではないので、受け取る側の解釈の幅が大きくなる。
自分が気に入った部分とはまったく違うところに、他の人は反応したりする。
メディアとしてのこのゆるい感じが、贈りものとして使うにはちょうどいいんですよ。

とはいっても、僕が実際に写真集を贈ったり贈られたりということは、日頃あまりないんですけどね。
でもそれは、職業柄、しょうがないところがあって。
写真について見る、書く、語ることが仕事なので、誰かから写真集をいただくことはたくさんあるけれど、
それを仕事と完全に切り離すことは難しい。
贈りものって非日常性が大事だと思うけれど、僕にとって写真集はあまりに日常すぎますしね。

贈りものとしての写真集をどう選べばいいか。
これはなかなか一概には言えないでしょうね。
贈る側と贈られる側の関係も千差万別だろうし。
言えるとしたら、読み解き方に幅のある写真集のほうが、
贈った相手にとってピンとくる可能性は高いのかもしれませんね。
たとえば人が写っている写真集。
顔や身体からは、人間の内面を想像したり読み取ったりしやすいでしょう。
風景などよりは、感情移入しやすくていいんじゃないですか。

タイトルを挙げるとすれば、牛腸繁雄『SELF AND OTHERS』はどうでしょう。
複雑な感情を呼び起こす一冊だから、人に贈るのはちょっと勇気が必要。
でも、これをぜひちゃんと読んでほしいなという気持ちを込めて、
本当に大切に思う相手に渡したらけっこう心に響くかも。
僕はこの写真集が大好きで、これまでに何度めくったか数えきれないけれど、
開くたびに新しいものが見えてくる。
いい写真集というのは、自分を映し出す鏡になったり、相手を見る鏡でもあったりするものです。
自分と相手の深いところまで探り出そういう覚悟があるなら、ぜひ使ってみては。

初めて写真集を買う人は、売場に行ってもどれを選んだらいいのかわからず途方に暮れるかもしれない。
そんなときは、見た目から入ればいいと思いますよ。
表紙を見てかっこいいと感じたら、きっとそれは中身もしっくりくる。
レコードを選ぶときによくあった「ジャケ買い」ってやつです。
外見からその写真集のメッセージが見えてくることは、大いにあります。

写真集にかかわるときに忘れたくないのは、実物を自分の目で見るというのがとにかく大切だということ。
インターネットで検索した画像でいくらチェックしても、
その写真集のモノとしてのありようは確認できません。
写真集とはやはり、自分の手で触れ、ページをめくる体験が伴わないと成立しないメディアなんだと思います。

たくさんの写真集に触れて、体験してみる。
そうすると、「こういうのが好きだ」「この感じ、いいな」と、自分なりの基準ができてくる。
いったん写真集と付き合う「かまえ」みたいなものができれば、
あとはどんどん好みの写真集に出合えるようになっていきますよ。
経験を積み重ねるにはどうしたらいいか。
これは手元に本を置いて、機会を捉えては見たり触れたりするべきです。
そのためにはつまり、買ったほうがいいということですよ。
立ち読みじゃ限界があるし、図書館で借りるというのもまたちょっと経験の質が違ってくる。
「身銭を切る」という言葉があるけれど、自分で財布を開いて手に入れたものは、リアリティが違う。

若いころは特にそうで、学生さんだったら、一食抜いてでも写真集を買うといいんじゃないかな。
人間のものの見方は20歳くらいまでに土台が出来上がると思うからね。
そのころまでに何を見たか、買ったかが重要ですよ。
だから逆に、10代の子に贈りものをする機会があったら、
写真集に限らなくてもいいけれど「本物」を渡してあげるといいのでは。

たとえば成人のお祝いに、僕が誰かへ写真集を贈るとしたら、ですか?
それなら、古典がいいかもしれない。エルスケンの『セーヌ左岸の恋』とかいいんじゃないかな。
いかにも青春っぽいし、いま見たって相当にかっこいいしね。
あとはウォーカー・エバンズの『アメリカン・フォトグラフス』も。
古典中の古典で、写真集のひとつの原型を確認できますよ。


いいざわ・こうたろう
1954年宮城県生まれ。写真評論家。
1980年代より幅広く評論活動を展開。
著書に『写真美術館へようこそ』(講談社)、
『写真的思考』(河出書房新社)など多数。
近刊に『深読み! 日本写真の超名作100』(パイ インターナショナル)。
きのこ研究家としての活動も盛ん。

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